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銘木スピーカーを買う

名うてのアンプビルダーがBluetoothスピーカーを作ったら

· 機材

Bluetoothスピーカーは世に数多あれど、そのほとんどが歪な音を発する、というのが偽らざる印象である。リファレンス用モニタースピーカーではない「単に気持ち良い音がする、ワイヤレスで接続できるスピーカー」が予てから欲しいと思っていた。だが「気持ち良い」の尺度は自分固有のものなので、誰かに適当に選んでおいてよとはいかなくなるのもまた事実。とにかくやたら低音がぼんぼん鳴って膨張しているような音ではなく、修飾少なめで上から下までバランス良く鳴っててくれればそれで良いのに、なかなか巡り合えない日々を送っていた。

岩手県一関在住のギタリスト近江さんがある日某SNSにちょっと気になる投稿をしていた。近江さんはギタリストだが「さんもく近江銘木(株)」という会社の偉い人で、読んで字のごとく木の専門家。その近江さんが扱っている1枚ものの銘木板を使ってBluetoothスピーカーを作ってみたという。にわかに色めきたった。近江さんからの情報だからこそ。

近江さんと出会ったのはあの「GON and the Family Soul」。近江さんのプレイもさることながら、持ち込んできたアンプにも驚いたものだ。硬い木材でがっちりと組み立てられたそれは、わざとクロス張りなどせず木の肌理がむき出しの、まるでタンスような「家具」然としていた。

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非常口の前に置かれてるヤツな(笑)

そして質実剛健な見た目と同じく余計なブレのないナチュラルな鳴り音で、しかもその音は「速い」としか言いようがないものだった。音が周囲に拡散する前に真っ正面へすごい速さで飛んで行くのだ。初めて出た音を聴いた時は唖然とした。一体全体、そりゃどういうアンプなの?それは一関のAkg Sound Designこと赤木篤久さんが作り上げたアンプだった。

赤木さんが作るギターアンプは、日本のメジャーどころがレコーディングで使っていたり超有名ジャズギタリストが使っているそうで、実はそうとは知らずに耳にしていたのかもしれない。SNSに投稿されたBluetoothスピーカーはその赤木さんが作るってんだから、おい、それはどういう音がするんだ!聴いてみたい!!

と近江さんにメッセージを送ったら聴かせてやるから来いという。そりゃ行くわ。

赤木さんは含蓄深く知己に富んだ職人さんだった。近江さん、赤木さんと雑談をしてお昼ご飯を食べ、Akg Sound Designに招かれた。工房の中は、まぁ一言で言って圧倒されますわ。1階は木材の切り出し削り出しの加工。その削り出しの工具まで自作という。コンピューター(OSはWin)にデータを入れると3Dプリンターよろしく木の塊からパーツが削り出される。すげえ。

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これが赤木さん(の後ろ姿)だっ!

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愛犬クロ。脱走癖あり

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こいつも自作

2階はどちらかというと回路組み立てや試行錯誤の場のようで、アンプの回路を入れるフレームやらスピーカーユニットやらが山のように。近江さん曰く「まだまだこんなもんじゃない」というギターやベースのコレクションの一部もここにあって、図々しくも試奏させていただいた。テレキャスシェイプのAkgオリジナルギターと5Wのコンボアンプ。アンプの実態はこれ(のオプションリバーブを搭載したモデル)。なんだか1年分くらいギターがうまくなった気がする。こいつは弾いていてひたすら気持ちよくなるアンプだ。ギターもすごいがアンプもすごい。

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肝心のBluetoothスピーカーの事を書いていないが(笑)、3機種の試作品ができあがっていた。厚み約50mm板状の材をくりぬいたタイプの2種は正方形。野球の1-3塁ベースを少し小さくしたくらいのサイズでスピーカーユニットは上面に付いている。厚みがたっぷりあるから基本的には縦に自立させて鳴らすのだが、壁掛けでも使えるだろう。そのカジュアルさが良い。で、もう1種はさらに一回り大きく、厚みは倍くらいあってウーファーを組み込んだ2.1chもの。前2種と異なるのはスピーカーユニットが側面に付いているので縦自立しては使えない。こっちは近江銘木のブログで製作過程が見られるじゃあないか。

木の店さんもく日々の業務日記 木のスピーカーカテゴリ

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3種ともバックロードホーンタイプで、特に最後の1番大きな個体はBOSEのwavesystemに似ている。スピーカーユニットは全機種とも小径フルレンジで、壁掛け可能な前者は小音量BGM風に使うなら良いが、大音量は苦手そうだ。ところがウーファー組み込み型は低音が補填され、上下全体的にバランス良く鳴ってしかもうるさくない。赤木さんこれはやっぱりフルレンジユニットだから?「ですね、フルレンジ、良いでしょう?」いいですねー。個人的には最近フルレンジスピーカーユニットの主張しすぎない感じが新鮮だ。

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結局この「ウーファーあり版」を買うことにしてしまった。だって材とユニットの鳴りが良くて、マスター/ハイ・ミッド/ウーファーそれぞれのボリュームコントロールができて、しかもラインインプット付きなんだぜ。ただし私が購入するのはこの日聴いた個体ではなく木材を変えて作る次作機を。だからまだ実体がない(笑)。完成して自宅に届いたらまた詳しく書こう。