サイトへ戻る

ガタゴトゴトン

余計なことに気付いてしまった話

· 音楽雑感
broken image

菅野よう子がアニメーションシリーズ「攻殻機動隊 Stand Alone Complex」(以下S.A.C.と略す)に作った作品「rise」のイントロと、それと同じモティーフによるアウトロはどういうわけか非常にカッコ悪い、と常々思っていた。

入院のヒマ生活の慰みに、サブスクリプション制の動画配信サイトと契約してしまい、40年ぶりにテレビっ子になってしまった。NO Wi-Fi環境ゆえ携帯電話キャリアのテザリングでネットに繋いでいるので、サブスクリプション代金よりもデータ使用料が恐ろしい…。

さてそこで「攻殻機動隊」を見始めた。士郎正宗のこのマンガ作品はまず押井守が劇映画化し、大いに評判を呼んだ。だがこの時の音楽担当は川井憲次である。テレビアニメ化される時に菅野よう子が音楽を担当した。私は士郎正宗原作のファンではあったが、人気マンガ作品を原作としたアニメーション作品が成功した例をほとんど知らないので、どちらかと言えばこれら映像作品を敬遠していた。が、ある時アニメシリーズ2作目の「攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG』」(以下2と略す)をケーブルテレビのアニメチャンネルでうっかり見てしまい、再解釈作品としては出色の出来であると見直した。冒頭に書いた「rise」は、この2のオープニング曲である。

今回改めてシリーズエピソード全部を順番に見直しているのは、1作目たるS.A.C.。改めてそのオープニング曲「inner universe」を聴くと、菅野のあまりの攻めの姿勢に驚く。曲を構成しているのは大きく分けてA,B,Cという3つパートなのだが、これらのメロディがまるで全部別の曲から寄せ集められたかのように、つなぎ目にガツンという段差感がある。「別の曲」というよりも「作曲したタイミングがばらばら」と書いた方が、この違和感をうまく言えているかもしれない。A→Bはまだしも、ブリッジ部分を挟んだサビたるCパートへの跳躍具合は凄い。一時代を築いた小室哲哉の「意図的な違和感転調」などとは別次元なのだ。だから耳が夢中でメロディを追いかけてしまう。

そんな風に聴き手を誘導しているのはアレンジである。通り一遍のことが何ひとつ無い。当時大流行だったと思われるRMX Stylusのサンプルによるものと想像するフィルターでうねうね変化するノイズ系パーカッションがもっぱら中心であり、奇数拍にも偶数拍にもそれを協調する音は無い(普通はバスドラムやスネアがそれを担当する)。サビでようやくベースパターンが出てきてホッとするくらいだ。終始浮遊感のある音だけがメロディを支えているせいか、聴き手はメロディの進行に集中せざるを得ない。だから並べられたメロディ音列の強力な力に没入することができる。このオープニング曲に付けられた映像そのものは陳腐でクオリティが低く、続けて視聴しているとスキップしたくなるのだが、仕方ないので目を閉じて曲だけ聴く。「inner universe」はすごい曲だ。

この動画の映像は

本文で触れているオリジナルの

オープニングアニメーションではない

一方2のオープニング曲「rise」は、それに比べればするっと聴きやすい。キープコンセプトの2作目だから…ということではないのだろうが、自然な展開のメロディと、前作に比べればずっと保守的なアレンジである。念のため書くが、私は「rise」を単品で購入し、一時期頻繁に聴いてもいた。だからこそ感じるのだ。この曲のイントロと、同じモティーフを使ってフェイドアウトしていくアウトロはダサい。カッコ悪い。初めは違和感だったのだが、YouTube上に溢れるエレクトーン演奏家が勝手に上梓している「弾いてみた」系の動画を見て確信した。本家は音色選びやエフェクト処理、つまりはアレンジの力で押し切っているので違和感レベルで済んでいるのだ。

inner universe同様、

この動画もオリジナルの

オープニングアニメーションではないが、

最後にアニメ版オープニング映像も

含まれている

しかしでは一体どこがカッコ悪いという印象の源なのだろうか。意外なことに、それはこの入院生活でわかった。私の入院している病院は仙台駅にほど近く、東北新幹線や東北本線など、いくつかの路線が一気にまとまって流れている。近代建築の病棟内にもその走行音はかなりの音量で聞こえる。入院生活はとにかくヒマなので、ボーッと電車が視界の左右に走り去るところを眺めていたりもする。列車が走っているのを見るのは楽しい。ひとつ発見だったのは、貨物路線が24時間体制だということ。人が乗る路線はせいぜい朝6時くらいから日付が変わる頃には止まってしまうが、貨物列車だけは昼間も夜中も同じような頻度で走っている。改めて物流というものを考える。

貨物列車は牽いている貨車の数が多いから、走行音も旅客列車に比べれば長めに聴くことができる。ガタンゴトン、ガタンゴトン。ところがある日気が付いた。カーブや陸橋がある部分ではレール長が異なるのか、このパターンが変わるのだ。それは「ガタゴトゴトン、ガタゴトゴトン…」となる。ン?ちょっと待てよ、このガタゴトゴトン、「rise」のあのダサい部分のリズムパターンと同じなのでは…??と、いったん気付いてしまうと(あるいは思い込んでしまうと)、そうとしか聴こえなくなってくる。近未来を描く作品に突然現れる「線路は続くよ どこまでも♪」の牧歌的雰囲気を勝手に脳内ミックスしてしまうために起こる、それは違和感なのだった。わかったところで拭えもしない。余計なことに気付いてしまったものだ。

broken image