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年頭所感2021

新年のごあいさつ

· 音楽雑感

2021年、あけましておめでとうございます。今年もミュージシャン服部暁典をよろしくお願いいたします。

冒頭からこんなことを書くのもどうかと思うが、2020年はあまりよくない1年だった。少しやっかいな病気に罹ってしまい、漠然と考えていた今後の人生というものを白紙から再設計せざるを得ない事態となってしまった。そのこと自体はネガティブなことだが、いろいろなこと、音楽や、大げさに言えば人生を深く考えるきっかけともなった。そう考えればこれもなかなか得難い機会である。要は自分の捉え方、考え方次第なのだ。

考え方の転換
その中で音楽に向き合う心情や態度にも変化がいくつかあって、どれもポジティブな変化だった。まず「音楽との向き合い方」が変わった。これは最大の、そして根幹となる変化で、言葉で説明するとしたら「客観性の過剰な追及をやめる」であり、簡単に言えば「オレが良ければそれで良し」である。ここ数年、曲になりそうなモティーフやアイデアが閃いても、「すでに誰かがやっているんじゃないか」と元ネタ探しを始めたり、必要以上に「これまで挑戦したことがない要素」を盛り込もうとしたりして自滅するパターンが多かった。そんな中、病を得て安静を強制された病床で様々な音楽のアイデアを得た。これまでなら前述のようなフィルタリング作業が始まってしまい、自分で自分にダメ出ししていたかもしれない。

そういう高いハードルの設定は、自分に対する義務のように半ばなっていたようで、振り返ってみると苦しかったんだなぁと思う。だが「人間、意外と簡単に死んでしまう」という事実に気づいてしまった今、大事なのはミテクレや評価ではない。本当に自分がやりたいことだけをやる。やりたいことは何でもやってみる。やる前にあれこれ考えるよりも形にしてから考える。このことを自分に言い聞かせるようにしている。これまでに着手はしていたものの、遅々として進まなかったアルバム制作も、自信がないけどやってみたいなぁと思っていたことが、みるみるうちに動き出したのが2020年の後半だった。そう考えると充実した1年でもあった。

アルバム制作
頭に浮かんできたアイデアで形になりそうなものは、片っ端から録音することにした。頭の中である程度熟成はさせるものの、テーマ部分さえできあがっていればとにかく記録してしまう。ブラッシュアップにあたっては再び頭の中でこねくり回さなければならないのだが、着手するかどうかをあれこれ考えていた頃に比べれば、形になる率が断然上がった。ついでに言えば、没にする判断も早くなった。耳で聴いて楽しくないものはやはりダメなのだ。

インプロヴィゼーションセッション
すでに始まる経緯や結果としての動画をご紹介しているので、多くは書かない。その場に立ち現れた音に反応して音で返すのは新鮮で楽しい。どんなタイミングでどんな音を出しても良い、なんとなれば沈黙していても良い、そういう自由さがこのセッションにはある。現在は動画配信の形で発表しているが、できればひとつのまとまった音源として残しておきたいと思っている。

The KAIKON Sessions Channelはこちら

他にもたくさん
その他にも芝居の音楽を作ったり、盟友が立ち上げようとしている動画配信プロジェクトに関わって、久しぶりにバンドでレコーディングしたり。芝居の音楽は8年ぶりの再演にあたって演出プランを変えるから音楽もやり直しという千本ノックである。同じモティーフで別の曲を作る練習みたいなものだ。それはそれで挑戦しがいがある。バンドレコーディングのような力業になる現場では、取り掛かりや基礎準備に時間がかかるものの、いざ調子が出てくれば意外と良いペースで進めることができるものだ。こういうのを「昔取った杵柄」というのだろう。いったん調子が出てしまえば楽しくてたまらない。アンサンブルの中での演奏上の立ち居振る舞いも同じだ。淡々とでも続けていないと感覚はすぐに錆びつくのだ。

あとはライヴをやりたいなぁということになるのだが、こればかりは演る側の熱意だけではどうにもならない状況が続いている。演れますよとなった時にすぐに動けるように準備を怠らずにしておく他ない。そんなわけで、今年もやりたいことをやりたいように、できるだけ多くの機会を作っていきたいと思う。今、音楽が楽しくて仕方がない。

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Photography: 橋爪徹