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テーブルを導入したらモニター環境が大改善された話

モニタースピーカーは設置のしかたも重要

· 機材

曉スタジオにテーブルを導入し、一気にモニター環境の改善を図ったところ、これが大成功した。

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上記のように1行で書くと意味があいまいになってしまう。まずこうだ。もう数年前からべったり壁際に置かれているモニタースピーカーYAMAHA NS-10Mの出てくる音に疑惑を抱いていた。どうも低音がスポイルされているのではないか、と。スピーカーはユニットからだけ発音しているわけではない。スピーカーの筐体の造りにもよるが、実は四方八方に音を発してる。だから部屋の真ん中に置くのと壁際に置くのでは「鳴り」が違うし、同じ壁際でも部屋の角の部分に置いた時とではやはり違う。当スタジオの場合、壁と平行でしかも近過ぎるんじゃないか。だから音波の波長が長い低音域が充分反射できずにいるのではないかと考えていた。

じゃあ手前に設置すればいいじゃんと誰でも考える。だが当スタジオの場合、88鍵のマスターキーボード(YAMAHA S90XS)と24chのアナログミキサー(MACKIE.24/08)が正面に陣取り、さらにはディスプレイアームで浮かせている24インチの液晶ディスプレイもミキサー盤面の上にある。リスナーはスピーカーに対して正三角形の頂点の位置に来るのが理想だ。だがケーブルが山ほど這っている床に、機材と機材の間に設置できる細身のスピーカースタンドを買うという手もどうも納得できない(スタンドを買うならオルタナティブとしてタイプの異なるスピーカーを先に買うべきだという思いもある)。

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以前のコントロールセンター全景

もっとも昨今のコンピューターを使った音楽制作環境は、こんなゴテゴテと機材だらけになったりしない。テーブルの上に液晶ディスプレイとパソコンのキーボードとトラックボール、49鍵程度のMIDIマスターキーボード、そして小口径のパワードスピーカーがちょこん、と。まぁこんな感じだ。2021年にゼロからスタジオを構築するなら間違いなくそうするが、前述のやたら場所を食う機材たちはデメリットもあるにはあるが、曉スタジオサウンドの個性とも言える。だとするとそんな誰もがやっているセッティングは敢えて避ける方が吉だ。

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こういうのね

そこで折衷案。テーブルを導入してその上にスピーカー置いて前に出す。リスナーとの位置関係は二等辺三角形になるが背に腹は代えられない。むしろスピーカーそのものを壁から離す方が先決ではないか。ということで某組み立て家具のお店から天板だけ買ってこようと目論んだ直後に良縁が降ってきた。親友の弟君が林業に従事しており、たまたま伐採したばかりの大木が何本かあるという。土砂崩れを起こした法面の補強工事にあたり、伐らざるを得なかったらしい。このままじゃ廃材になってしまう。何かに使ってもらえないか、使ってくれる人はいないか、と探しているという。試しに訊いてみるとテーブル天板材への大ざっぱな切り出し加工はするから、引き取って使ってもらえると嬉しいという話だった(彼は本当に林業と森林を愛しているのだ)。なんと送料だけで良いという。この話に乗らないヤツはいない。複数ある材から栂(つが)を選び1500 * 400mm、厚み50mm程度に切り出してもらうことになった。他の材のサンプルまで事前に送ってくださった。贅沢な話である。

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もちろん切り出してそのままのものをテーブルに使うことはできない。専門家による加工が必要だ。ここでまた福音が。普段いっしょに演奏している某ベーシストT君は木工職人でもあるのだった。もっとも彼は家具というよりも木製玩具を作りたい人なのだが、薄謝で悪いがなんとかならない?と頼んだらやってくれるという。渡りに船とはこのことか。

話はとんとん拍子に進み栂の板材が仙台に届いたのが2020年早春。ちょうどその頃だ。私の体調が急激に悪くなり入院してしまったのは。6月に退院はしたものの自分の楽器も運べないほど体力が落ちていた。況んや分厚い栂の部材など持ち運べるわけもない。無理を言ってお願いしているのでT君に取りに来てくれとも言いづらい(それにそんなこと言いだしたら「いいから大人しく療養してろ!」と怒られるに決まっている)。それでも少し体調が安定し始めた2020年秋、T君に材を預けることはできた。

ところが預けてみたらこの栂、激しく反りだした。いや、スタジオで眠っている時から反り始めていたのだろう。「手荒に今削っちゃって平らにしてもまた反ってイタチゴッコになるだろう。少しウチで寝かせておくよ」とのT君の申し出に当方にはイチもニもない。とは言えT君、預けている間も様々に作業してくれていた。最後はレーザーで面の平滑を突き詰めてくれて、とうとう2021年5月、栂のテーブル板が完成した。

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スタジオに届けられた栂はすべすべのぴかぴかだった。包みを解くと濃厚な木の香が漂う。それだけでも嬉しいのだが、裏面には反り防止の金属板が穿たれており、脚代わりのキーボードスタンドへ乗せるための「脚」も付けてくれている。50mmほどの厚みをもった側面は木肌がむき出しで、元の木の太さどおりに奥行きは左右で異なる。あれこれ試行錯誤しながらセッティングを終えた。

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さっそくミックスダウン途中の自作曲をDAWで再生してみる。するとどうだ、まず左右の定位がよりはっきりした。またこれまでどうものっぺり感じていた前後の距離感もよくわかるようになった。全体的に音の解像度が高くなった印象だ。サブで使っている民生ラインのミニコンポのスピーカーも同様。線材もアンプも改装前とまったく同じものなので、これは置き位置によって起こった変化である。素晴らしい。

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時間が経てば細かいところはリファインしていくと思うが、狙ったとおりの改善ができて嬉しい。近々ゲストを招いてのダビング作業があるから、そこまでにもうちょと耳を慣らしておこう。H君、T君、本当にありがとう。