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seven years

完成するのに7年かかったある曲の話

· 音楽雑感

制作を進めている服部のニューアルバム。今回は完成するのに7年かかったある曲の話。

自宅レコーディングに手を染める人には今更説明の必要もないが、純リスナーな方のために説明しておくと、私が通常自宅でひとりで音楽作品を作る場合、コンピューターの専用アプリケーションにデータを打ち込んでいくところから始まる。それは演奏だったり数値の入力だったり、マウスであれこれいじったりという、いわゆる作曲家が五線紙の前で鉛筆で音符を書き込んでいく…というイメージとはほど遠い光景である。どうして音楽制作がこんな風になったかというと、オープンリールテープ以来の録音機材の歴史と技術的発展の必然が関わってくるのだが今回は省略。

ひととおり気の済むまで演奏を多重録音したら、今度はそれを聴きやすいようにまとめる作業に入る。音量や音質を調整するわけだが、場合によっては演奏はしたものの、部分的に、あるいは全部をカットするフレーズなどもある。この過程を作曲の一部と考える作家さんも多いだろう。これをミックスダウンという。アンビエント、エレクトロニカなどと呼ばれるジャンルの作家さんは、このミックスダウンを人前でリアルタイムでやっている…と言ってもいい。

ミックスダウンが終わるとひとまず人様に聴かせられる状態にはなるのだが、アルバムのように複数の曲を任意の順番に並べてパッケージする場合はマスタリングという行程も経る。曲ごとに少しずつ異なる音量や音質を均一化するだけでなく、曲と曲の間の時間を設定したりする総まとめがマスタリング。

技説が長くなった。このエントリーは、演奏録音の段階が終わったので、ミックスダウンに入ろうかな…と思っている段階から話が始まる。

実はこの曲、作曲したのは2010年だった。その当時の段階で当然ミックスも終えており、あとはアルバムに収録するためにマスタリング行程に進むだけ…で放置していた曲だ。何年か経ってチェックしてみると、まずジャズブラシドラムがよろしくない。残念ながら今も昔もジャズドラムのブラシ奏法のサンプルにはグッとくるものがない。それでもこの曲に採用したYAMAHA S90XS内蔵のブラシ奏法のドラムキットはそこそこ良い感じで、だからこそGOサインを出したのだが、結局時間を置いて聴きなおすと、「なにか、グッとこないなぁ」という思いを払拭できなかった。問題はブラシ奏法のドラム音源である。どうしたものかと逡巡しているところにXLN Audio社のAddictive Drums2というプラグインドラム音源にジャズブラシという音源が追加された。デモを聴くとかなりイイ。早速購入してこの曲のドラムデータをそっくり打ち込みしなおした。それがなんと2015年夏の話である。5年も放置していた。

購入直後に背面を黒マットに塗装

YAMAHA S90XS

すでに製造・販売は終了

その後もこの曲についてはもがきにもがいた。ストリングスセクションを足してみた。先輩や友人に恥ずかしい言い訳をしなくてすむようにがんばったが、あまりにも根を詰めてしまって出来の判断ができなくなった。またしばらく放置である。重い腰を上げて後日再チェックすると、ストリングスはともかく、やっぱりドラムに満足できない。事ここに至って「ジャズピアノトリオの演奏」という当初コンセプトを放棄。藁にもすがる思いで自家製のわざとらしいブレイクビーツを加えてみた。もはや何が何だかわからないアレンジになっていた。もう手に負えん。ボツにするつもりで一旦忘れることにした。

2016年の冬。ふとしたきっかけで、人前でこの曲を演奏する機会があった。改めてこの曲に向き合ってみて改めて思った。「着想の段階では充分愛着が持てるものだったんだよなぁ…」。後日自宅で再びピアノに向かってぽろんぽろんとつま弾いてみた。7年前に作った時と同じように「この曲は自分にとって大事な意味がある」と思える。これは作家の過剰な愛着にすぎないのかもしれない。だがひとつ言えることは、2010年当時にこの曲を作ったことで気付いたことがいくつかあって、その気付きは今も自分の作曲行為の判断規準として生きているということだ。つまり2010年にこの曲を作らなければ、その後作ったあの曲やこの曲は無かったことになる。となれば、やはりアルバムには収録しておくべきだろう。混とんとした現状をなんとかせねば。

結局この曲は何度目かの大手術を受けることになった。まずピアノは弾き直した。シンプルなピアノトリオ編成というアレンジ上の仮想制約も全廃し、音色や音数でドラマを作ることにした。曲の構成自体はテーマ→アドリブ→テーマというごくシンプルなもののままだが、同じパートが戻ってくるたびにバッキングで鳴る音色を変えている。試行錯誤したストリングスセクションは単独でステレオファイルに書き出し、ラジオボイス風に加工した。リズムセクションも考え方を変え、メトロノームっぽい打ち込みパーカッションに、グルーヴに最低限必要な音だけを鳴らした。もはやそこにドラムセットという考え方はないのだが、フィルやシンバルレガートなどだけはブラシドラムで試行錯誤した時のデータをそのまま使っている。最後まで辿り着いてみれば、2010年に録音した演奏で最後まで残っているのは鍵盤ハーモニカのソロだけだった。

まぁなんとか満足できるものになった。時間をかけることが最善ではないが、7年分の思考と試行が投入された自分としては珍しい出来上がりとなった。あとはタイトルを決めるだけだ。

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