仙台市内唯一のシンセ天国、島村楽器仙台イービーンズ店に赴いた。DSI社のシンセの実機を試奏できるのは東北では恐らくここだけではないだろうか。今回はオーバーハイムのOB-8の復刻版OB-6とProphet'08の改良版Prophet Rev2を軽く弾いてみた。
その試奏によって思い知ったのは「ヴァーチャルアナログシンセ」の功罪と「高級アナログシンセのポテンシャル」であった。 今回試奏した2台のシンセについて多くを語る必要は無いと思うが、Rev2の前身たるProphet '08については、以前試奏インプレッションをエントリーした。双方のシンセを一言で評するなら「非常に有機的な印象を持つ高性能な楽器」ということになる。シンセサイザーに於て「高性能な楽器」という評価は、つまりその機種固有の音が出せるという意味であり、生楽器に負けない音圧・音質を備えているということだ。
80年代後半、もっと具体的に言えばサンプラーとKORG M1(1988年)の登場以前と以降では、シンセサイザーの役割は大きく変わった。具体的には「どんな生楽器の音でも出せること」がシンセの重要な評価規準になった。もちろん60年代にシンセが登場した時も同じ夢を見た。「自然界のどんな音でも合成できる!」という夢である。しかしそれは幻想だった。少なくともアナログシンセはアナログシンセの音しか出ないのだ。サンプラーとその発展形であるPCMシンセの登場で、そのことはより鮮明になった。デジタル技術の超音速のごとき長足の進化で、アナログシンセは絶滅したかのような様相を呈していた。
螺旋階段をぐるりと周り、そのデジタル技術が再びアナログシンセを表に引っ張り出した。CLAVIA Nord Leadシリーズを筆頭に世界中からバーチャルアナログシンセがリリースされた。私もRoland JP-8000、KORG MS2000を所有している。それらはKORG POLY-61やRoland JUNO-106に比べ制御の自由度も高く、何よりもほとんどノイズの無いクリアな音質を実現していた。本当のアナログシンセを知る身としては、特に音圧の面で「こんなもんだっけかなぁ」という欲求不満を覚えないわけではなかったが、それでもやはり安定して良い音質で音が出せることは何にも増して便利なのだった。
しかしDSI社のシンセ、取り分け純アナログ機種である今回の2台を弾いてみると、アナログシンセサイザーの、本当に美味しい部分がよくわかる。乱暴な言い方をすれば「本物のアナログシンセをなめるなよ」という感じだ。この2台に共通しているのは
・図太い音を出す発振器
・効果絶大なフィルターとEG
・人間が触れる部品の素晴らしい操作感
の3つだ。正直に言ってOB-6とREV2の差はよくわからなかった。モニター環境が劣悪だった関係もあろうが、でも適当なプログラムを選んで、フィルターをどんどん開いてEGを0.10.10.0にセットすると、どちらのシンセも凄まじい音圧を備えていること以外に大きな差は無いように思えてしまう。しかしその図太いオシレーターは、恐らくロックバンドの中で鳴らしても最後まで埋もれないだろう。そういう予感がひしひしする。だから恐らくキャラクターを分けている大半の要素はフィルターのキャラなのだと思う。あとは信号のルーティングだろうか。
そして2台とも「アナログシンセの音」しかしない。不器用なのだ。現代の代表的シンセ、例えばMotifやKRONOSと比べるまでもなく、製作現場での汎用性は低い。逆に波形単体の素性の良さは、同じくそれらデジタルシンセとは比べ物にならないほど荒々しく太い。
本当に突き抜けたシンセサイザーは、発音や制御の方式に関わらずユーザーの音楽制作スタイルを変えてしまうだけのポテンシャルがある。そうではあるものの、本来の意味でのアーティスト、即ち金銭のためでなく生きる意味として音楽を作らないと精神のバランスが取れない人に対しては、楽器の汎用性の高低は意味がない。そういう壊れる寸前の人の魂を受け止め、打ち返してくるのはOB-6やREV2のような「これしかできません」というシンセではないか。デジタルとアナログ、それは簡単に比較できる問題ではないが、少なくとも打ち返してくれるアナログシンセが2017年現在2台も存在することはよくわかった(Prophet6を含めれば3台だ)。