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鍵盤ジェダイ呑み#5挙行さる!

ショスタコーヴィッチ交響曲4番を大音量で聴いてみたい!

· 鍵盤ジェダイ呑み,音楽雑感
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北田了一、阪下肇之、GON高橋、服部暁典の4名が集まって、果てしない音楽談義と飲み食いを繰り広げる「鍵盤ジェダイ呑み」の第5回目が挙行された。例によって会場は岩手県盛岡市のBluesky Field Studio。音楽に関する森羅万象についてリミッターをかけずに語り合えるこの時間は貴重である。あまりに濃い話が延々と続くので時間が足りず、前回から17時集合、17:30スタートで実施している。今回も解散は26時。8時間半(笑)。それでもずいぶん話を端折った感がある。本会の開催経緯やこれまでの記録は下記リンクをお読みいただきたい。

第1回目2015年3月7日「鍵盤ジェダイ呑み会挙行さる!」
第2回目2017年3月20日「鍵盤ジェダイ呑み会2挙行さる!」飯島真理初期三部作徹底解剖
第3回目2018年5月18日「鍵盤ジェダイ呑み3rd開催さる!」モニタースピーカー聴き比べ
第4回目2019年7月17日「鍵盤ジェダイ呑み#4『始末と不始末』」気になる盤とローカル音楽業界の困った人たち 

第5回目のテーマはGON高橋提唱による「ショスタコーヴィッチ交響曲4番を大音量で聴いてみたい!」。もともとのきっかけはGONちゃんがSNSに書きこんだ「爆音で交響曲(のCD、レコード)をみんなで持ち寄って聴く会とかやりたい。covid感染拡大防止対策で野外で。とかショスタコとかワーグナー聴きながらふと思いました」「ショスタコーヴィチの交響曲は楽器のセクションセクションで役割がはっきり分かれてて小編成のバンドにも応用できそうなアイデアがあるよなあと思う。弦はこれやって、金管はこれやってーみたいな構造が比較的はっきりしてる。」など一連の発言である。クラシック音楽というキーワードはあったものの、メンバーがてんで勝手に音源を持参。誰から行く?というノリでさっそくショスタコ4番から。

Part1「ショスタコーヴィッチ交響曲4番を大音量で聴いてみたい!」
このレポートを書いているわたくし服部自身はクラシック音楽をほぼ聴かない。これまで聴いてきた過去もない。だからこの夜は「勉強させていただきます」の心境であった。

◦ショスタコーヴィッチ 交響曲第4番
クラシック特有のダイナミクスの幅広さを、ラージモニターによる大音量再生で堪能する。曲を知らなくても(結局聴いた事ありました)この体験だけでもDNAが記憶してしまうレベルのインパクト大な体験である。あらためて「大音量よりも小音量での演奏表現」についてあれこれ。「ピアノを(強弱記号の)ピアノで弾く時にさ、例えば満席のカーネギーホールの後ろに座ってる人にまで届くように弾けって(ピアノの)先生に言われた」という北田発言に全員「うーん」。音楽の強弱記号とはかくも奥深い。

◦チャイコフスキー 交響曲第4番「悲愴」
同年代のロシアの作曲家の作品を続けて2曲。なんちゅうか、悲壮としか言いようがないよね、この曲(笑)。ロシアという土地柄、お国柄がそうなのか、感情過多な印象。ただこの頃に限らず、現役の音楽家は同時代の同僚の作品に目を光らせているもので、必ず皆が影響しあっていることを実例を挙げつつ確認。その辺は現代とまったく変わらない。ただメディアというものがほとんどなかったから、その伝播力やリサーチ範囲は比べ物にならないくらい狭かったろうけれど。

◦ワグナー トリスタンとイゾルテ
◦バーバー アダージョ
繊細でフレーズが割りとわかりやすい。その特徴つながりで後者も。北田さんは「白玉コンプレックス」なのだという。白玉とはミュージシャン業界の符丁で、全音符や二分音符のような玉部分が黒く塗りつぶされていない音符のこと。ピアノという楽器は打鍵の瞬間が音量のピークで、あとは減衰するしかない。ピアノを長く弾いていると持続音を出せる楽器が羨ましくなるらしい(笑)。後者の「アダージョ」はもはや白玉しか登場しないんじゃないか?と言いたくなる曲。坂本龍一がアルバム「Beauty」でカバーしており、この重厚なストリングスアンサンブルを胡弓とピアノのデュオで見事にやりきっている凄さについて。作品として聴いてみれば「おおすごい!」だけど、曲の本質を完全に掴んで再解釈するってのは相当な難事業だ、などなど。

◦レスピーギ 交響詩「ローマの松」
これは服部が提供。前述2名のロシア人作曲家と同年代(と言ってもいい?)の作家の作品だが、高音・中音域のきらびやかさはその2曲とは正反対と言える。またフレーズの組み合わせ方も繊細で緻密だ。これもお国柄だろうか。特に今回のように「聴き比べ」だと、ロシアン2曲とは低音の控えめさが際立つ。4楽章の「アッピア街道の松」ですら「あれ?こんなもんだっけ?」というあっさり具合。しかしこれら3曲だけでロシアとイタリアの作曲傾向分析ができるわけでもない。この辺はもう少し知識見識が必要。

ここで北田さんが流れを変える。前述の、時代に関わらず「現役の音楽家は同時代の同僚の作品に目を光らせている」の具体例。

◦ヘンリーマンシーニ(曲名忘れた) VS 宮川泰「ゲバゲバ90分のテーマ」
もうこれは……。才能あふれる人がやると、パクリもパクリとは言われないのねというと語弊があるが、単なる「あ、それ、いただき!」ではないところはさすが。どちらかというと「オレがやりゃあもっと……」の気概であろうか。マツダ ロードスターとホンダ S2000の関係に似ている(わかりにくい)。後者については当時のレコーディングの様子も語られて興味深かった。譜面の解釈について作曲家が演奏家にあれこれ言うとヘソを曲げるなんてこともあったらしい。オケでそれをやられちゃあたまらない。時代を下って70-80年代でもスタジオミュージシャンはコワイ存在だったと私のレコーディング技術の師匠も語っていた。翻って現代のミュージシャンは軽んじられていると思う。

◦ブラームス 交響曲第3番
詳細を忘れてしまったが、オーケストラ作品中のフレーズ単体の力強さについてあれこれ話していて、サンタナがブラームスのフレーズで1曲やってたなという話題。

Santana Feat. Dave Matthews - Love of My Life

冒頭のフレーズがそれ。出来上がりを聴けば「めっちゃサンタナ」。サンタナ、いいよね(笑)。

◦ホルスト 惑星
これをオケではなく冨田勲の演奏で聴いたのだが、もう、冨田すげえの一言。この「すげえ」の意味を全部説明していくとものすごい長文になる上に完全に網羅して書き切る知識も私にはない。思い切り凝縮して書けば「シンセサイザーという楽器のありとあらゆる可能性を1976年の段階でほぼ全部実音化している」「その後のあらゆるコンテンポラリー音楽に影響を与え続けている」の2点だろうか。このアルバムで冨田が使っているのはモーグ IIICというモジュラータイプ(機能ごとにモジュールになっていて、それを組み合わせて音を出す)のシンセサイザー。現代のシンセはデジタル化しマトリクスの自由度を捨て定型接続にしたことで小型化・廉価化を達成している。一方でその過程でいかに多くのものを捨ててきたのか、このアルバムは教えてくれる。メロトロンのクワイアをわざわざモーグのフィルターとエンヴェロープジェネレータを通すことによって、信じられないほど美しいスキャット(ヴォカリーズ)に仕立て、それもごく短い登場時間でしかない。冨田の音作りの執念を感じずにはいられないし、その耳の良さにも恐れ入るしかない。

しかしそれにしても「あ、このスキャット、メロトロンだよ。ムーグのEG通してんだよーこれ」とか、なんで知ってるの?それ有名な話なの?ジェダイ呑みではこの手のトリビアというか裏話が普通に飛び交う。口角泡を飛ばして冨田讃歌を歌っていたらアルバム全曲を聴いてしまった。北田さん曰く「月の光から始まる冨田シンセアルバムの最高傑作だと思う」。改変や指定外楽器による演奏を許さないホルストの遺族もOK出すしかない出来。

平船精肉店のローストチキン。イナちゃん飯店はお休みだったそうで…。

平船精肉店のローストチキン。

イナちゃん飯店はお休みだったそうで…

阪下さんのご母堂作のきゅうりの漬物

阪下さんのご母堂作のきゅうりの漬物

日本酒もあるよー

日本酒もあるよー

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Part2「閑話休題」
この辺で大体ワイン1本が、日本酒四合瓶が数本カラに。ちょっと耳を休ませようということで飲み食いタイム(まぁずぅっと飲み食いしてるんだけど)。ここに書けない話題がてんこ盛り。メンバー向けの備忘録としてキーワードだけメモしておく。

・「『接待スペイン』はもうやめよう!」。他にも「接待チキン」「接待フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」などなど。
・ガッドのキックに仕込んで持ち込んだウィル・リー
・坂本龍一、清水信之の下プロデュース業

鍵盤の上にものを置いてはいけません1

鍵盤の上にものを置いてはいけませんその1

ビューティフルなグラス

ビューティフルなグラス

Part3「どうしてこうなった?」
市販の音楽作品の中にもあまりの低意志、低クオリティに目が丸くなるようなものがある。どれとは言わないが。そんな作品を聴きつつダメになってしまった理由や背景を探求した。もちろんここにその作品名やアーティスト名を上げることはできない。そんな作品の中で、「この人の音楽性を突き詰めていくと、きっと土岐麻子なのではないか」という分析があり、ひとしきり土岐麻子の音源で盛り上がる。その中のある曲からの連想で、「フロレゾン/児島未散」というアルバムを阪下さんが嬉々として再生。「このアレンジャーだーれだ?。ヒント、清水信之ではありません」などなど。あのー、文字で読んでも面白くないかもしれませんが、現場ではめっちゃ盛り上がったんですよ、ええ。

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他にもバンド「シャンバラ」つながりでこんなアルバムも……。

Cologne/秋元薫

盤が変わって上掲画像のアルバム「Cologne/秋元薫」。サウンドは90年代初頭の国産ポップスのアイデア見本市のような趣で、強引に例えればドリフのコントである。今ではお約束になった手法と音色と演奏がつるべ打ちなのだ。それらが出てくるたびに我々は爆笑に次ぐ爆笑。しかしそれは手法を分解・勉強してしまった現在だからの笑いであって、当時はこれが最先端。またこの頃のスタジオミュージシャンは神懸かりにうまかったので、今聴いても聴きどころの連続で息継ぐヒマもない。ふと阪下さんが「でもこの頃さぁ、北田さんもこういうのやってたじゃん」と爆弾発言。ワインで酔っぱらった北田さんが「やってたー!!すみません!!!!」とこちらも大盛り上がり。ぜひ当時の音源を聴かせていただきたいものだが、本人の中でどういう扱いなのだろうか(笑)。とにかく北田さんがこの話題で壊れてしまい、ずぅっとハイテンションのままだったのがおかしかった。

Part4Spectrasonics「KEYSCAPE」を弾いてみよう!
阪下さんが新しいプラグイン音源を導入したという。Spectrasonics社の「KEYSCAPE」というピアノ音源である。「ちょっと弾いてみない?」と言われて弾かいでか!服部のインプレッションとしては

・離鍵時の音のリリース(消え方、消え際)がものすごく自然
・発音が速く、弾き手によっては演奏のグルーヴすら変わりかねない

実は上記ふたつの点をクリアしている音源は希少だ。Spectrasonics社だけあってピアノのブランドごとの音色の違いまで含めてサンプリング技術は素晴らしい。況んやローヅ、ウーリッツゥア、クラヴィネットをや。

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ここでGONちゃんがハイテンションになるのはわかるのだが、北田さんまでハイテンションのまま弾き始めたのですごいことに。ローヅサンプルのチェックを始めたら「ここに本物があるのに!」とGONちゃんが阪下さんの極上スーツケースを弾き始め、北田さんとのローヅセッションが始まってしまう始末。次いでウーリッツゥアのチェックで北田さんが「You've got a friend」を(ドニー・ハザウェイのライヴバージョンで)弾き始めたら、全員で大合唱になってしまった。ゆじゃすこー あまいねー♪

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ホンモノとニセモノでローヅセッション

ホンモノとニセモノでローヅセッション

あぁ、楽し過ぎる。

少々お高いが、KEYSCAPEは要購入であることが判明した。素晴らしい。先にTrilogyを買おうと思っていたのだけど。

鍵盤の上にものを置いてはいけません2

鍵盤の上にものを置いてはいけませんその2

Part5「2020年の今、あらためてオフコースを聴く」
これもGON髙橋SNSでの発言案件。我々の年代だとオフコースはその最盛期(と言っていいのか)が多感な時期と重なっており、並々ならぬ思い入れがある音楽である(北田さんを除く)。服部の中学1ー2年生の時がちょうど武道館10日間公演だから最盛期と言っても過言ではあるまい。「さよなら」「YES-NO」「I LOVE YOU」などがつるべ打ち。しかし中学生の自分にメガヒットだったのはあくまでメロディと歌詞だったわけで、今さらジェダイ呑みで掘り下げる要素があるのかなぁ……とナメきっていたのだが、GONちゃんは正々堂々「音楽の質」について語りたいらしい。また阪下さんが「OFF COURSE 1981.AUG.16~OCT.30 若い広場 オフコースの世界」というDVDを用意してくださっていて、見ようぜ見ようぜ!と盛り上がるGON髙橋。この映像はNHKの番組をそのままパッケージしたもので、アルバム「over(1981年)」の曲作りリハーサルからアルバム完成までを追いかけたドキュメンタリーに、インタビューやその武道館公演の映像が混じるもの。で、観るわけです。

たいていの曲は映像に合わせてGONちゃんが弾きまくる!

たいていの曲は映像に合わせてGONちゃんが弾きまくる!

はっきり言うと、服部はオフコースの音楽ってシンプルであっさりした歌謡曲だと思っていた。が、それは間違いだった。まずこの人たちは格段に楽器演奏がうまい。そしてバンドで演奏することにこだわりがあって、そのクオリティも高い。曲はなんとなくの感覚では作っておらず、洋楽まで含めた最新の動向を横目で見つつ研究し、最新の要素をどん欲に取り入れてサウンドを刷新し続けてきた人たちだった。言い訳だが中学2年生にはそれはわからんかったです、すみません。「over」はバンドのキャリアの中でも最初のピークであろうと思われ、そんな作品作りの葛藤が赤裸々に映像化されていた。素晴らしい。これ、前に見た事あったんだけどさっぱり気付かなかった。馬鹿愚か。

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映像を見終わって、「じゃあ実際に聴いてみましょうか」と阪下さんがLPレコードを取りだす。この日初めてのアナログ盤再生だったのだが、クラシックや80-90年代のCDよりも数段音が良いのには魂消た。録音が良く、ミックスが良く、マスタリングが良く、カッティングが良い。何よりも演奏そのものが良い。「結局さぁ、マイクの前で何が起きたかってことが全てなんだよ!」と北田さんが言う。残りの三人が無言で深く頷く。わはははは。

Part6ささごんたの新作をミックスダウンしてみよう!
今回のジェダイ呑みの直前、GON髙橋がSNSに自身のパーマネントバンド「ささごんた」のニューアルバムのレコーディングが進行中と書きこんでいた。なんならジェダイ呑みにマルチ状態で持ち込んでみんなでミックスしてみたら?とでまかせ言ってみたら、「それいい!」ということに。実際GONちゃんはトラックを丸裸にされて、あーでもないこーでもないとけちょんけちょんに言われると覚悟していたらしい(笑)。しかし!実際に聴かせてもらったある曲はあれこれ言う隙もないものだった。仮ミックスの状態のその曲を再生が終った瞬間に3人の口から出たのは「うん、良いじゃん。早く(CDなどで)出してよ」というものだった。「え?ホントに?なんかこうした方がいいとか、アドバイスないの?」とGONちゃんは半信半疑だったが、せいぜい低音域をトリートメントするくらいしか思いつかない完成度。無理やりジャンル的な言葉を割り当てれば「テクノフォルクローレ」とでも言おうか……。とにかくこのささごんたの出す音は、知っているのに知らない言葉のようでクラクラワクワクしてしまうのだ。その他の曲も含めて、早くまとまったアルバムとして聴いてみたい。GONちゃんよろしく。

このためにGONちゃんはMBPを持参

このためにGONちゃんはMBPを持参

時計の針は午前2時を指している。眠気MAXである。そろそろ解散しましょうか。こうして特濃の夜は更け切った。会場を提供してくれた阪下さんにお礼を言い、盛岡市内のホテルへ北田さん、GONちゃんとてくてく歩いていく。このクールダウンの時間も良い。天気予報とは裏腹に雨は降らなかった。次回開催は何がきっかけでいつになるのだろうか。そしてこの4人で演奏する機会はいつ訪れるのだろうか。どちらも楽しみで仕方がない。今年もありがとう。次回もよろしく。

【追記】このレポートはあくまで服部の主観で書いたものである。他の3人からクレームが入るかもしれない。その時は書き直します(笑)。