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機材レビュー・KORG MS2000

バーチャルアナログシンセサイザーはどれも同じか?

· 機材

近年、相次いでミュージシャン仲間からシンセサイザーをもらうという僥倖を得た。その2台のシンセサイザーの印象を書いてみたい。いずれもネオビンテージ、ちょっと古いシンセではあるが、優れたシンセサイザーとは代替不可能な音色的特徴を持っており、自身の音楽に有益ならば新旧や価格の高低に関わらず所有する価値がある。傍観者の蘊蓄ではなくバイヤーズガイドのつもりで書いてみる。

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KORG MS2000(2000)
1990年代の後半、デジタル技術によるアナログシンセのリバイバルがブームになった。バーチャルアナログとかアナログモデリングと言われるそれらの火付け役はClavia社のNordlead(1995)であるが、その火がRoland JP-8000(1996)によって国内に飛び火した格好であった。そのJPにしろ本稿の主役KORG MS2000にしろ、各社のアイコン的機種名を冠とすることで「いかにもアナログでっせ」感を醸造していた。音楽に使えるかどうかはともかく、それは新しい潮流だった。この潮流は2018年の現在も健在である。

KORGのオリジナルMSシリーズMS10や20は、E-muやMoogのシステムシンセよろしく様々な回路・機能をケーブルでパッチ(接続)することが音作りの特徴だった。MS2000(以下単にMSと表記)がその後継を名乗るには回路のパッチ機能が不可欠なのだが、本機ではデジタルマトリクスでそれを実現している。この方式は晩年のOberheim社のド級デジタルアナログハイブリッドシンセXpander(1984)で初めて採用されたが、MSのマトリクスもソース、ディスティネーションともそこそこ充実している。このデジタルマトリクスの他にも「オーバードライブ」や「リングモジュレーター」「モーションシークエンサー」「イコライザ」「ディレイやモジュレーションエフェクト」などの音色作り直結パラメータの他に、「アルページェータ」でリズムループ的な演奏まで可能になっている。

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だが基本的な構造は2オシレータ+1フィルタ+1アンプにフィルタとアンプ用のエンベロープがひとつずつという、言わば「かけそば」や「素うどん」的簡潔さではある。従ってキモはオシレータ波形の図太さなのは間違いないのだが、MSに限らずバーチャルものはそこが弱い。試みに種々のモジュレーションを全部パスし、フィルタ全開のオルガン的エンベロープカーブで素の波形の音を聴いてみればそれはわかる。残念ながらMoogやSCIの諸機種のように、波形だけでビリビリ言うような素性の良さは持っていない。

MSで音色を作る醍醐味は図太い波形にものを言わせるディストーションギターもかくやのそれではない。オーバードライブやイコライザで「鳴りそのもの」を太くしたり、前述したマトリクスやモーションシークエンサ、アルペジェータを駆使して時間軸上の変化を加えていくところにある。これはプリセット音色をひと通りチェックするとすぐに体感できるが、フィルターやモジュレーションの動きを記録・再生するモーションシークエンサをアルペジェータと組み合わせることによって、なかなかドラマティックなパッド系音色や1ノートで複数のリズム音源がループ再生されるような音色を作ることができる。

MS2000は一見ツマミたくさんの如何にもシンプルなアナログシンセもどきと受け取る人が多いと思うが、事実は逆で、やや上級向けのシンセと言える。おいしい音色を作るには各機能や信号ルーティングの理解が必要で、求める音色に向かってロジカルなエディットが求められる。「なんとなくいじってるうちにカッコいい音ができた!」というシンセではない。実はJPもその傾向はある。90年代後半に設計またはリリースされた日本製バーチャルアナログシンセは、どうもロジカルなエディットを求めるように思える。

1997年以来JPを常用してきた私は、両者を特徴づけているのはフィルタであると考える。RolandシンセのハイライトはHPFを使った音色であり、KORGはLPFであると思う。恐らく純アナログの時代から、それこそオシレータレベルから両者はそれを意識して製品作りを行ってきたと信じている。モコったパッドに色気がある(純アナログほどではないけれど)MSは、その意味ではやはりKORGらしいと言える。加えてその籠った音色の中に、何かが蠢くような音色変化を加えたプログラムは「そのためにこいつを持ち出す」理由になり得る。

全体的にはバンドアンサンブル内の飛び道具として、あるいはエレクトロニカ系サウンドのベーシックなアトモスフィアを担わせる大黒柱として、用途は広い。「KORGだから音が太いはず」という思い込みを忘れることができれば、活躍する場所の多いシンセと言える。以下ランダムに気付いた点を列挙して締めくくる。

・2オシレータ時は4音ポリ化に注意が必要
・パネル面積の関係かツマミが小さい(electribeシリーズの流用)
・パネル面デザインが複雑で、初心者には信号の流れが把握しにくい
・AUDIO IN機能やボコーダー機能がおトク
・電源はACアダプタで、KORG純正アダプタは断線しやすい
・筐体が軽い

TS君、本当にありがとう。有効に使わせてもらいます!

 

もう1台のシンセENSONIQ TS-12のインプレッションはこちら

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