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a Point of Life ライナーノーツ

2023年8月21日発売。アルバム a Point of Life のライナーノーツを公開

· 音楽制作,Promotion
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a Point of Life / HATTORI akinori

1.Monologue
2.Untouchable Sky
3.Will be a Lady,Soon
4.Vital
5.Hope for Change
6.Harvest
7.a Point of Life
8.Astra
9.Strange Flowers

All Songs Composed,Arranged,Produced and Performed by HATTORI akinori
Recording Engineering,Mastering by HATTORI akinori

guest musicians
in "Monologue"
OIKAWA fumikazu (Drums)
Recorded at A-Cue Studio

in "Vital"
TAKAHASHI atsushi(Drumloop,Strings Arrange and Big Friendship)

in "Hope for Change"
KAWAMURA shin'ichi(The Hottest Guitar Solo)

in "a Point of Life"
SAKUMA kosuke (Cool Guitar Solo)

artwork: ITO hitomi (Zelt)
art direction: ITO yutaka (Erykah)

acatsuki records AR-0002

<読点>
2020年に私は病を得た。それは一時「実は死ぬところだった」らしい。当時自分にそういう危機感はまったくなかっただけに、人間の肉体の脆さと自分の寿命を初めて意識する経験だった。以来「人間は意外と簡単に死ぬ」という意識が常に頭の中にあり、その結果「これからは自分のやりたいことだけをやろう」と思い定めることができたのは怪我の功名と言える。そしてもうひとつ、自分のやりたいことを真摯にやり切ればそれは説得力を持つと確信できたこと。2018年の前作「琥珀」とはこの2点が決定的に異なっている。

このアルバムはこれまでの創作人生を区切るための読点である。私の音楽がこれからも変化し続け、今後もいくつかの読点を打っていければと思う。

<鍵盤ハーモニカ奏者です>
ふたつの本質的な気付きを得て、新しい視点でアルバムをプロデュースすることができた。これまで自分のアルバムはまず1曲の充実ありきで、充実した曲が集まれば充実したアルバムになると考えていた。一面では真実と言える。だがアルバムとして聴く時、「ピアノの曲」だったり「ギターの曲」だったり、このアルバムはどの楽器に注意して聴けばいいんだ?と思われるリスナーもいただろう。前作「琥珀」について「ひとりのアーティストのアルバムには聴こえない」という声を実際に聞いたこともある。そこで本作は鍵盤ハーモニカを主役に据えることにした。そうやって定まる焦点もあるだろう。これは鍵盤ハーモニカ奏者・服部暁典のアルバムです。

<昔の自分を再評価>
これまで過去の自分の曲をリメイクすることはほとんどなかった。最新作こそが成長の証であり、だから過去作は「今よりも劣るもの」だった。近年久しぶりにラジカセを購入しなおしたことを機に、それこそ小学6年生の頃からの自作曲のカセットテープを聴き返してみた。それらが拙いことは言うまでもないが、理学的に正しいかどうかなどという基準を大きく超える「音楽、楽しいぃっ!!」という悦びと、高揚した演奏が記録されていたこともまた事実。55歳の現在の自分とどちらが優れているかという話では当然なく、10代や20代の頃でなければ持ち得なかった、それら情熱やら勢いやらというものは、あらゆる稚拙さを曰く言い難い力で乗り越えてくる。そこである程度の普遍性をもった曲を選んで、今の知識と技術とで作り直してみた曲も収録した。そういう作業を経てみると、音楽に向きあう態度や愛で方は、10代でも50代でも本質的には変わっていないと思える。それもまた発見だった。

<できた順からどうぞ>
いつもアルバム内の曲順には悩む。特に制作期間が7年にも及んだ今作は、曲と曲の制作モチーフには実はほとんど関連性がなく、従って曲を聴く順番に何らかの物語性を持たせることが難しかった。なので逆に開き直り、本作の収録順は概ね録音した順に収録することとした。完全にではないが、概ねそうだ。通して聴くと、アルバム制作のドキュメンタリーという側面も与えることができた。

1.Monologue
「やりたいことしかやりたくない」と開き直って作った最初の曲。これって楽ですよ、判断が。オレはこれが好きか?という自問に対して正直に答えれば良いだけなのだから。だから作曲作業にも演奏にも大して時間はかからなかった。挑戦的な要素はほとんどなく、これまではそれをサボることだとネガティブに捉えてきた。だが考えようによってはこれは恐ろしいことだ。「やりたいことだけやった曲」を聴かれるということは、「おまえはこの程度の作家か」と見切られることに他ならないのだから。そのことを包み隠さず提示できたことは、逆に新しい挑戦なのかもしれない。構想初期段階からこの曲のドラムは生ドラムで、それも盟友及川文和のドラムを想定していた。

2.Untouchable Sky
9/8拍子で作り始めたものの、途中で理解不能になり挫折(笑)。今までなら我慢強く向き合ったかもしれないが、生まれ変わった服部はもうそんなことはしない。タイトルだけそのがんばってる名残。どうしても手が届かない空。本作収録曲の多くはこれまでになく完成までに多くの時間がかかっているが、その弊害は「アイデアを詰め込み過ぎてしまうこと」だ。この曲はその最たるものかもしれない。推敲にずいぶん時間がかかってしまった。

3.Will be a Lady,Soon
1996年作曲の、本アルバム中もっとも古い曲。当時はもっとシンプルで遅いテンポで仕上げていた。そもそもこの曲の存在をすっかり忘れていたのだが、冒頭に書いた自作曲の聴き直し作業で久しぶりに思い出した。鍵盤ハーモニカで演奏するという与条件と相性が良さそうだったので挑戦してみた。再アレンジのアイデアは早々に決まったものの、そのアイデアが生きるテンポがなかなか決まらず、難産だった。実は難しい曲なのかもしれない。

4.Vital
2020年3月の入院中にベッドの上で作った曲。「ヒマでしょ?」とMIDIキーボードを病院に送ってくれた髙橋督に感謝。スタッカートだけでメロディが作れるか試してみた。スケッチ程度にまとめた音源を、感謝とともに督に送ったら、凝ったドラムループと督印のストリングスパートがダビングされて戻ってきた。理想的な往復書簡。対抗心を燃やして別の部分に自分でもストリングスパートを作った。ストリングスアレンジャーがふたりもいる。聴く人が聴けばたちどころにわかるはず。

5.Hope for Change
ある野外イベントのプロモーションビデオ用に作った曲。だがビデオ完成に間に合わず発表の機会を失い、あわや脳内お蔵入りの憂き目にあうところだった。屋外イベントプロモーションだからこその能天気な曲調。でもこういうのをやらせると、本当にオレはうまい(笑)。自分でかなりギターを弾いてしまったが、腰の座ったギターソロが欲しくて河村さんを呼び出してしまった。サンキュー!ミスターむなしー!

6.Harvest
これも古い自作曲のリメイク。オリジナルの録音がいつのなかもはやわからないが、カセットMTRにアナログシンセ1台と初期のPCMリズムマシン1台で録音していたことは確かだ。もはや原始時代である。メロディそのものはストレートで素朴な邪気のないものなので、構成やアレンジでドラマを作ってみた。この曲も録音に時間をかけすぎた。反省。

7.a Point of Life
もう何年もサビのフレーズだけが脳内でループしていて、忘れても忘れても浮かび上がってくる。こうなると外に出してやらない限りいつまでも居残ることは必定。サビだけを何度も弾いていたら、すらすらとAメロができあがった。調子いいなと思っていたら、やはり脳内で熟成を待っていたまったく別の曲だった。つまりこの曲は2曲分のアイデアが詰め込まれているのである。贅沢な曲になってしまった。「ジャズギターがベースにはあるが、フレーズ自体はコンテンポラリーなギターソロ」はとうてい自分には演奏できず、佐久間康丞を呼び出してしまった。

8.Astra
当初6/8拍子のバラードだったが、ふと気付いた。「ここ数枚のオレのアルバム、必ず6/8拍子のバラードが入ってるんじゃね……?」。惰性で曲を仕上げてはイカン!ということで、BPMをミディアムテンポまで上げ、スクエアなグルーヴの4/4拍子、典型的なフュージョンサウンドを目指してみた(どこまでも生真面目なわたくし)。すき間だらけのスカスカアンサンブルを目論んでいたのだが、うっかり弾いてみたエレキベースがあまりに饒舌で、それ以外のウワモノも饒舌路線に引っ張られてしまった。設計図どおりに進むだけと思われがちなひとり多重録音だが、実はこういう意外性やドラマ性が内包されているのだ。

9.Strange Flowers
折々に頭の中に浮かぶアイデアは、それぞれ個別のもののような顔をしているが、実は前後に浮かんだそれと密接に関連している。サビだけが先行してできあがったのだが、あれ?この曲、「a Point of Life」そっくりじゃん……?と気付いてしまい、一度はボツを覚悟した。だが惜しい。かつてまったく別の曲として仕上げた同名曲と合体させ煮詰めたところ、色々とアイデアが浮かんでしまい……。あきらめず仕上げられたことは幸いだったが、同じアイデアから生まれた曲が続いてしまうのを避けるために曲順を入替えた。