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宇宙大作戦 グスコーブドリ・ミッション

オリジナルサウンドトラック ライナーノーツ

服部暁典が劇中音楽の世界に本格的に歩み出した第一歩

· 音楽制作

TheatreGroupe "OCT/PASS" Vol.29
宇宙大作戦 グスコーブドリ・ミッション オリジナルサウンドトラック
各曲解説

仙台文学館にて2023年10月7日から12月17日まで開催される、企画展「石川裕人 演劇に愛をこめて」。数多ある関連イベントの中で、TheatreGroup "OCT/PASS"「宇宙大作戦 グスコーブドリ・ミッション」のリーディング公演がその開催初日に行われる。2009年の作品を上演するにあたり、音楽は当時のものをそのまま使うこととなった。そういう状況から派生する形で、劇中音楽を一度作品としてきちんとまとめてみようと思い立った。"OCT/PASS"へ提供した劇中音楽の、初のアルバム化である。本エントリーはライナーノーツの代わりに収録曲を解説する。

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制作室アーム小関歩氏の緻密なお仕事

2009年、あるいはそれ以前。ひとり多重録音による音楽制作とバンドによる生演奏の両軸活動だけでは物足りなくなった私は、何か制限のある音楽制作で腕を磨けないかと目論んだ。その頃仙台演劇界隈に少しずつ知り合いができはじめており、脚本や演出による制限のもとで作る劇中音楽(劇伴という)に目をつけた。その時不遜にも自らを売り込んだのが石川裕人さん主宰のTheatreGroup "OCT/PASS"だった。最初は劇中歌のカラオケ1曲だった。そして芝居一本丸々音楽担当という条件では2009年のこの「宇宙大作戦 グスコーブドリ・ミッション」が最初ではなかっただろうか。

実は裕人さん以外の芝居の脚本というものをあまり見たことがないのだが、裕人さんの音楽指定はト書きに「○○な音楽」「○○な雰囲気の音楽」などとしか書き込まれておらず、出し入れの厳密なタイミングやどれくらいの長さが必要なのかは読み取れないものだった(これは後年までそうだった)。稽古場で隙を見て音楽打合せを行うわけだが、当時はこっちも緊張して「オーダーはなんでも実現しよう」と意気込んでいたものの、この「宇宙大作戦」ではいきなりジョン・ウィリアムズのパロディをやらねばならぬ羽目になったり、洗い出したM数(曲数)が20を超えているなど、いきなり大変なことになったと内心青くなっていた。2023年の今改めてこれらの曲を聴きなおしてみると、どの曲も裕人さんのオーダーに正面から応えていないように思う。というよりもはっきりと力不足である。強引に服部のできる範囲にねじ曲げて曲を仕上げ、ぎりぎりに納品したからリテイクする時間もなく「仕方ないからこれでいいよ」とOKを勝ち取ったように思えてならない。

もっとも裕人さんはこの「微妙に自分のオーダーどおりではない」という作風を面白がってくださったようで、私を馘首することもせず、その後のOCTの正規公演の音楽を引き続き担当させてくださった。私は私で完成された脚本を演出家とは別の視点で解釈した音楽が生む、ある種のズレを伴う観賞体験の奥深さに魅入られた。「宇宙大作戦」ではまだ演出家の意図どおりに仕上げることで精いっぱいであったが、作品を重ねるに連れて裕人さんの演出意図を理解した上で指示とは違うものを提示することもあった。確か腰を据えた音楽打合せも行わなくなった記憶がある。「どこでも好きな場面で好きなように切り刻んで使ってください」とイメージアルバムみたいなものを作ったりした。こういう経験の浅い初心者の暴走を諌めるどころか面白がるのが石川裕人という演出家の凄みである。その後もいくつも思い出深い作品に関わることができたが、この「宇宙大作戦」は、演出家 VS.音楽家、表現者対表現者の切磋琢磨の原初体験になったという意味で、特に服部には印象深い作品である。

01.[M01]宇宙大作戦のテーマ
ト書き曰く「壮大な、そうでないような序曲」そしてスライドで物語世界が流れ行くテロップで観客に説明される……。これはあれだ、つまりスター○ォーズだ、ジョン・ウィリアムズだ、と曲解。いや、タイトルは「宇宙大作戦」で、モロ違う作品ですから。でも当方オリジナルの宇宙大作戦そのものも、アレクサンダー・カレッジの流麗なテーマ曲もほとんど知らず、曲解したまま「オーケストレーションなんてどうやればいいんだよ」と早くも別の問題に頭を抱えていた。曲のコンセプトや細かいフレーズができあがるのは早かったが、それを実音に置き換え具体的なアレンジに落とし込むのはずいぶん時間がかかった。同時制作のオープニング映像の出来が早く、尻を叩かれながらの制作だった記憶がある。

02.[M03]舞台転換1
つまり劇伴全体の核となるテーマ曲に手こずり過ぎて、それ以外の曲の制作時間にずいぶんとしわ寄せがきた。脚本のページをめくりながら矢継ぎ早に作曲録音作業を進めた。「暗転、音楽」と指定されていた舞台転換が劇中数回あるため、ひとつのアイデアで数曲作り分けて作業時間短縮を目論んだ。単なる省力化のアイデアではあったが、このM03を基準にバリエーションを作っていく作業は意外と楽しかった。

03.[M05]砂の器的BGM
この曲に限らず、本作の音楽はこうと決めたらワンアイデアで押し通す傾向がある。この曲も映画「砂の器」のプロットからくる大ざっぱな印象と、劇中やり取りされる台詞の印象から「哀しければいいんだろ!」と開き直った前時代的な哀切のメロディである。ルバート気味のピアノソロ+アトモスフィア的シンセサイザーのパッドと訳の分からない打撃音という……、あぁつまり坂本龍一のサントラっぽくしたかったんだな的な軽薄さで仕上がっているのだが、その開き直りが返って良い結果を生んでいる(と思いたい)。

04.[M06]舞台転換2
舞台転換にはどれくらい時間がかかるのかさっぱり読めなかったので、この曲のバリエーションはどれも5分近くの尺を取っている。収録した2以降のバリエーションは編集で短くしたものを収録した。

05.[M07]オハマの計画
スパイ大作戦(TVシリーズ)のまんまパクリ。

06.[M09]摩耶のテーマ
摩耶=マヤ文明だろという浅慮からなんとなくフォロクローレっぽく作ってみたが、これがフォルクローレかと正面切って問われると一言もありません。

07.[M10]座敷牢現る
宇宙船の制御室の奥から突然座敷牢が出現するという訳の分からないシーンのための音楽。ストーリーの転換点になる部分ではあるものの、これまで仲間だと思っていたメンバーが裏切り者だったという場面なので、少しネガティブな曲調にした。いつまでたっても歌が始まらないヘビーメタルのイントロみたいな曲。

08.[M11]オハマの哀しい過去
Track3と同様、哀しいメロディがありゃいいんだろ的なやっつけ仕事。要は鍵盤ハーモニカを主体にした演歌。ベースを生ベースで手弾きしたら予想外にエモーショナルになってしまい、劇伴を超えて独立した1曲としてどこかで発表しても良いなと自画自賛していた曲。

09.[M14]舞台転換3
M03を基本として、そのバリエーションではどんどん楽器を減らして行くアレンジを試みた。

10.[M16]着陸船都々逸号用意!!
都々逸=純日本的=三味線という天才バカボンのサブキャラ並みに知能指数の低い発想と、大道具が舞台奥から迫り出してくる絵をイメージして作った曲。相変わらず転換時間がわからないので長めに作っている。録音する時は鍵盤楽器よりもギターの方が楽しい。

11.[M17]舞台転換4
どんどん演奏している楽器が減って行く。

12.[M27]舞台転換5
もはや骨と皮ばかり。

13.宇宙大作戦のテーマ(映像用edit)
基本のテーマ曲はそういうわけで四苦八苦しながら仕上げたが、併せて鈴木拓君が手がけたオープニング映像の出来が殊の外素晴らしく、それにひっぱられて若干演出も変わり、芝居の進行は映像の尺に合わせることになった。となるとTrack1に収録したテーマ曲のようにフェードアウトで終わるわけにもいかず、かなり強引にじゃじゃじゃじゃん!というエンディングをでっち上げたのがこれ。

前述したように、経験不足から演出よりも自分に今できることに寄ってしまった内容だが、SFコメディの態を取るこの作品だからこそ、これくらいのあざとさ、けれん味が許されたように思う。また芝居から切り離されてサウンドトラックとして並べた音楽群が、ある意味雄弁に芝居を語っていることは私にとって少し意外だった。いつか"OCT/PASS"のみなさんと取り組んだ作品の音楽から、より抜きのサウンドトラックアルバムを作ることができると嬉しい。