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ある録音

ピアノトリオの同時録音という修業

· 音楽制作

ひとり多重録音で10年に渡って作業し続けたソロアルバム「琥珀」がようやく完成したので、真逆のことをやりたくなった。ミュージシャンがスタジオに集まっての一発録音。かなりの高負荷が予想されるが、なんとかなるんじゃないか。折りしも盟友にしてドラマー及川文和が関わるスタジオでは、さらに様々なスタイルの録音実績を重ねていく過程にあった。これらが渾然一体となって、いつ発表するかも曖昧な録音計画が始動した。

一方2018年6月30日に開催された「ジャズプロムナード in SENDAI 2018」で演奏したトリオでもう一度何かやってみたいという気持ちも大いにあった。そのトリオとは及川文和のドラムに服部暁典のピアノ、そして佐藤弘基のベースである。佐藤弘基(以後弘基ちゃんと書く)と出会ったのは高校2年生の時。20代前半を同じバンドのメンバーとして過ごし、数える程だが時々一緒に演奏する。「ベースは脇役ではなく、音楽そのものを支配し得る重要な楽器」であることを私に教えたふたりのベーシストのうちのひとりである。我々も意外だったが、及川佐藤服部が揃って演奏するのは20年数年ぶりなのだった。及川+佐藤、佐藤+服部、及川+服部の現場はいくつもあったのだけれど。

しかしバンドがスタジオに入って同時録音するための準備がそれ相応にある。その準備作業を2ヶ月くらいかけて行いこの録音日を迎えた。ルームアコースティックは素晴らしいが、ドラムとピアノとウッドベースが同居するケースは初めての体験である。ピアノとウッドベースは「山彦」という有名なピックアップを使うことで、ギリギリのアイソレーションを保つことができただけでなく、アコースティックピアノ、ウッドベースらしい音質で録音できた。近年のピックアップマイク、バウンダリーマイクの性能向上は想定以上である。ということで、パンチイン/アウトを考慮しないという前提は付くが、ピアノトリオの同時録音が行えるスタジオが身近にあるという僥倖を最大限味わうべき時が来たのである。

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この日のワークスペース。

狭いが広大

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16ch入力のCUEボックス。

相棒

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及川文和大将

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うなだれているのでも寝ているのでもない。

プレイバックを確認中の佐藤弘基

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"このテイクはどうかな?"

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当日録音したのは私のオリジナル曲ばかり。「Et Ranger」「琥珀」「Je t'aime」の3曲。ピアノトリオで無理なく演奏できる曲をピックアップしたらこうなった。録音は全員がひとつのブースに入り「各マイク入力へのカブリなど知ったことか!」という清々しい態度で14時から始まり、18時過ぎに終了した。私は16時には撤収できるだろうと思っていたのだが甘かった。及川など「テイク数のギネス記録に挑戦!」みたいなことを言っていたのだから、むしろ早かったのかもしれない。

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これを使う曲も録音したい

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私はほぼ1年中DAWに向かってレコーディングしている人間だが、「あ、失敗した」で⌘+z(アンドゥ)できる録音と、今回のようなスタイルでの録音はまったく別物である。今回ほどそれを痛感したことはない。及川に弘基ちゃんという気心知れた相手ですらそうなんだから、これが商業音源録音現場で初対面の相手と、さらにコントロールルームにわんさかいる関係者から注目されての現場なら手も足も出ないと思った。

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オーディオインターフェイスはMIDAS m32。

ピアノのバウンダリーマイク以外は

全部m32のマイクプリアンプを使用

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そこそこ指が回るようにウォームアップもしていったつもりだが、これもなんだか思ったようではなかった。いやわかっている。基礎練習が足りないのだ。こういう時に馬脚を現すのだ。それを録音の現場で思い知っても遅すぎる。左様、私個人としてはまったく会心の演奏ではなかった。もっと経験値が欲しい。帰宅したらものすごい疲労感で、翌日は背中がバリバリに凝っていた。そもそも身体の使い方がなってない。とほほ。そうではあるのだがこういう音源を残しておく意味は個人的に感じている。あとせめて3曲録り足して、6曲収録のミニアルバムとして発表するつもりだ。メディアは未定。

おまけ
この方にも大変お世話になった。

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このピアノのメインテナンスを一手に引き受ける仙台調律業界の重鎮小田島智さん。「ピアノは録音に耐えられるようにしておいたから、あとは服部さんが魂を込めた演奏さえしてくれれば…」と言って帰っていった。もー(笑)!